死亡遊戯

雑感

ハリウッド映画に共通する生と死の境界線について私見を述べよう。

あなたが子供だった場合

おめでとうございます。9割がたセーフティーです。基本的に殺人鬼やモンスターに殺されることはまずありませんが、気をつけなければいけないのはそれはあなたがちゃんとスクリーン上で動いていることが前提です。逆に、劇中のTVニュースや新聞紙面上ではかなりえげつない目に遭う可能性もあるので、チョイ役でもいいのでちゃんとセリフをもらいましょう。また裏を返せば「死」以外の事象から逃れられる術はありません。ホッケーマスクの殺人鬼に散々追い掛け回されようが、看守からカマを掘られようが、カニバリズムなおじさんに脳みそを食わされようが、来たるべく明るい将来のために熱演することを忘れないようにしましょう。
また、クランクアップ後の実生活においても油断は禁物です。あなたの父親がマネージメントに口を出し始めたり母親が麻薬に溺れようものなら、それはあなたの役者人生の終焉を意味します。親は選べませんが、良識あるエージェントとの出会いに活路を見出しましょう。

あなたが犬・猫だった場合

おめでとうございます。9割がたセーフティーです。が、それはあなたが主人公の相棒だったり人間の声を理解できるケースがほとんど。むしろコメディー映画の場合、「笑いの一要素＝あなたの死」という処理のされ方はかなり伝統的な手法として確立されていますので、オファーが来た時は「人から笑われる死」を覚悟してください。例としては電流を流されたり、劇薬を飲まされたり、窓から放り投げられたり、が多いですが、大抵の場合、硬直した死体と化すのが通例のようです。
それらを避けるためには、まずは読唇術から始めましょう。「口達者なネズミ」、「寡黙な老人」、「引越してきたての孤独な少年」などがあなたの生存率を高めるラッキーアイテムです。

あなたが緊急時でありながら女性とムフフな状況になった場合

「英国の凄腕スパイでありかつスタッフロールが流れる直前である」という2つの条件をあなたがクリアしない限り、殺人鬼がすぐ側まで迫っている（ひどい時にはベッドの下に潜んでいる）ことがほとんどなので、みんなのいる部屋に留まる方が賢明です。「普段は勝気で罵声を浴びせるくせによくわからない状況に陥ったことでガードが緩々になっているジェシー」との情事は、一生手に入らない千載一遇のチャンスとあなたは思い込むかもしれませんが、達成前に彼女もろとも真っ二つにされては元も子もありません。
それに大丈夫。ジェシー程度の「田舎の高校でたまたま可愛い方のグループだったためにつけあがったビッチ」は他にも沢山います。あなたにとって今一番大事なことは、次回作に出ることです。

あなたが黒人種だった場合

30年前までは秒殺のフラグが立ちましたが、昨今はAffirmative actionの影響もあり、意外と助かるケースも増えています。ですが油断は禁物です。あなたが巨大ザメに喰いちぎられない保障はどこにもありません。立ち振る舞いとしては、「メガネをかける」、「専門知識に長ける」、「弱小アメフトチームを優勝に導く」、など、知的かつ良心的なBroを装うことで生存率は飛躍的に高まります。逆にあなたが、地元のクイーンズで3on3をやっていたり、目を閉じて声を裏返しながらラップを歌っていたり、カルト宗教の教祖の真似事をしている最中に、見たことも無い不気味な白人と遭遇したときは、下手に絡まないほうが身のためです。不運にも話しかけられ、「〜はどこにいる？」等の質問を受けた際には、素直に回答しましょう。残念ながら誠意をもって対応したところで既にフラグが立っている可能性の方が高かったりもしますが、間違っても「あぁん？聞こえんなぁ？」などと挑発することだけは避けましょう。
死は目前です。

あなたが黄色人種だった場合

残念ながらその時点で、95%の確率であなたは死にます。映画のジャンルを問わず、あなたは死にます。それもわりと酷い目に遭うでしょう。巨大生物に食われるか、殺人者に残忍な手口でバラされるか、未来から来たサイボーグの打った流れ弾に当たるか、どんな方法かは知りませんが、「あなたが映し出される＝こいつ死ぬ」はもはやお約束です。例えあなたがブラックベルトを所持していようが、妙な気孔術に長けていようが、あなたが奇声とともに奥義を繰り出したが最後、通用することはおろか、逆に相手の神経を逆撫でして、通常よりも酷い最期を迎えることになります。現時点では有効な回避策は発見されていませんので、アジア生まれの不幸を呪うしかありません。
ただし過去の事例から、「ただのアパートの管理人でありながら実は凄腕の空手家のジジイ」だった場合のみ、生存する道が残されているかもしれません。その場合は伝統に習い、いじめられっ子にワックス洗車のコツを伝授しましょう。

あなたが元海軍特殊部隊所属のコックとキッチンで遭遇した場合

その男の名は、ケイシー・ライバックです。例えその男が現役を退いてから10年経っていようが、あなたの元・上官であろうが、致死率は100%、生き残る術はありませんので、せめて派手に散りましょう。
むしろその逆境を利用して映画史に残る死に様を呈する、という発想はアリかもしれません。事実、それを実践したとある男優は、その後大成して大スターとなり、日本の缶コーヒーのCMに出演するまでに至りました。世の中何が起こるかわかりません。